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Yaitars(ヤイターズ)~雲外蒼天のひと~

印刷ページ表示 更新日:2021年2月26日更新

暮らす人々

地域にチャレンジする人を増やす、支援することを目的に設立された「矢板ふるさと支援センターTAKIBI」では、地域で活動する様々な方々にインタビューし、その暮らしをお届けしています。

澳原大介さん

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雲外蒼天 スカイベリーの先に視る未来像

農業は病害虫や天候にも左右され、生半可な気持ちでは続けられない事業だが、おいしい作物が収穫されて沢山の人を笑顔にできる喜びも実感できる偉業でもある。

「雲外蒼天」という言葉に相応しい生き方を、青空を冠するいちご・スカイベリーと共に歩まれている澳原 大介さんにお話を伺った。

 

 

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好きなスポーツからいちご農家への転身

澳原さんはサッカーがずっと好きで、農業短大へ進学してからはフットサルに火がつき、就職先に名古屋のプロフットサルチームを選び、仕事とは別に社会人のクラブチームでもプレーしていた。しかし、あるきっかけで矢板に戻りお父様と一緒に農家を始める。

―農業は早い段階から継ごうという気持ちだったのでしょうか。

 

澳原さん

 そういう訳ではなくて、10年くらいは自分の好きな仕事をしたいと思ってました。就職して二年半後に父が入院しないといけなくなり、それが丁度収穫の直前で人出が足りなくてそれが戻ってきたきっかけでした。それまでの間、さんざん好き勝手させてもらいましたからね。今度は自分が恩返しする番だって思えました。

 

幸いにもお父様はその後回復し、一緒にいちごの栽培を続けていく。

 

―苦労されたことはあったのでしょうか。

 

澳原さん

 農業系の高校や短大も行きましたが、実践的なレベルでの実習ってそんなになく、いちごは専攻していなかったので全然知識もなかった。本当に現場に入って、見様見真似でやるレベルからでした。

 

しかし、澳原さん自身いちごへとのめり込んでいくようになったのが農薬の使用回数の多さだった。減農薬栽培が難しいと言われるいちごだが、模索するうちに化学農薬ではなく総合的に色々な手段を複合的に行うIPM栽培(※)に出会い、先行して実践する農家へ教えを乞い学んだ。

※「IPM(Integrated Pest Management:総合的害虫管理)栽培」と呼ばれる栽培法。化学農薬だけに依存せず、「病害虫」を予防・駆除するさまざまな防除策をとる。

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現在澳原さんが行っていることは、防虫ネットで虫の侵入を防ぐことから、ハダニ被害には天敵のダニを使用するなどして減農薬に努め、いちごを育てるハウスは毎日巡回。早期発見・早期防除が農薬の使用量を最小限に抑えている。

もう一つのこだわりは<完熟収穫>。一般的ないちごは、まだ少し青いうちに収穫し、流通の間に成熟が進み赤く熟してきたころに店頭に並ぶが、澳原さんはお客さんへ発送する当日の朝に収穫を行い、その日のうちに発送。そのため最短では収穫の翌日に届けることが可能で、いちご本来の甘味を最大限に生かした状態で食べてもらえる。

 

澳原さん

 自分が食べたいいちご。それが極力、化学農薬が使われていないものであり、完熟で甘みの乗ったものなんです。

 

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二人三脚ではなく、相互扶助の関係に

さらに大きな決断をしたのは、約4年後。「澳原いちご農園」として独立する。

それまでつくってきた「とちおとめ」を父親が手掛け、新品種「スカイベリー」を澳原さんが手掛けることで、完全に経営を分け、父親からのれん分けすることにした。

 

澳原さん

 父親と一緒だと、どうしても手伝っている感覚で、経営面は頼ってしまいます。独立することで、経営感覚も身に付くし、なによりも覚悟をもって臨めるかと思いました。

 

ほどよい酸味と甘みのバランスが良い「とちおとめ」に対し、「スカイベリー」は大粒で甘くてジューシー。どちらかというと新品種スカイベリーが注目されているが、顧客からとちおとめが欲しいという要望があった場合は父親から仕入れることで対応している。

経営は独立しても、そこはやっぱり家族。時に父親を手伝い、家族としてのメリットを生かしながら支え合っている。

 

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農家だからこそできる”食育”を子どもたちに広げたい

そして澳原さん自身の熱い想いから、新たなアプローチをしている取り組みが<食育>だ。

 

澳原さん

 いちごは手間をかけただけ品質や収穫量に影響するといったところは、とてもやりがいを感じる部分です。子どもからお年寄りまで、万人に愛される唯一のフルーツだと感じています。

 そんないちごの栽培を通して、私自身が多くのことを学び、いちごの可能性と将来性を感じました。子どもたちが、いちご栽培から多くを学び、感性を引き出すきっかけになるのではないかと思っています。

 

食育インストラクターの資格を取り、6年前に母校である豊田小学校へ企画を持ち込み、いちごを苗から育てる授業を行っている。

澳原さん

 いちご狩りなどの収穫を体験することが食育活動とする見方もありますが、私は違うと思っています。自分で育てたものを収穫することが、一番の食育の効果ではないでしょうか。もちろん、育てながら害虫に食べられたり、病気になり、枯れてしまうこともあります。しかし、むしろその体験の方が子どもたちにとって、良い経験になるはずです。

 収穫という良い面だけでなく、収穫までの管理や水やりなどの大変なことこそが、食を考える上でとても大切な部分ではないかと思うのです。『食べ物を作る』こと、『生きる』ということ。これらの接点を見つける”食育”を広げていきたいです。

 

現在も豊田小学校では全校生徒がこのいちごの定植活動を行っていて、毎年楽しみにしている。(豊田小学校ブログホーム - 矢板市立豊田小学校 (schit.net)<外部リンク>)

 

苗を植えた後も、ご自身がいちごハウスを毎日巡回しているように小学校へ定期的に訪問して、病気になっていないか、害虫がついていないか、水やりはしっかりできているかと細やかな配慮で見守っている。

 

澳原さん

 ある年は冬休み前の最後の活動で、実際のいちご農家と子どもたちが育てた苗の違いをスライドショーで流しながら説明しました。規模の大きさの違いや見たこともない機械を見てびっくりしていました。その日の放課後、当時6年生だった子が4名自転車で遊びに来ました。実際にハウスをみたいとのことで、とても感心しました。食を伝えるということは、農業を伝えることにもなるんだなと実感しました。今後もこのような活動を他の小学校にも広げていきたいと思います。

 

2020年は日光市の下原小学校でも食育活動が始まり、澳原さんの「食べ物を作る×生きる」ことを伝える食育は、新しい令和の時代、さらに求められ広がっていきそうだ。

 

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改めて、フットサルの施設管理の仕事からいちご農家へと転身を遂げたことへの想いを確認してみた。

 

 

澳原さん

 フットサルもいちごも、お客さんに喜んでもらうというのは一緒なんです。子どもに対して何か感じ取ってもらうことも同様。人見知りな僕ですが、こうして人に喜んでもらうのが何よりの生きがいなのかもしれません。

 

予定よりも早く矢板へ戻ったことに対するネガティブさは全く感じられない、澳原さんの落ち着いた佇まいには、日々いちごの品質向上を目指す弛まない努力と、ご自身が育まれた地域への貢献や未来の子供たちへの温かい眼差しがあった。

スカイベリーといういちごは、爽やかで甘い果汁が魅力的ないちごで、澳原さんにも似ている気がする。

そんな澳原さんの活躍をさらに応援していきたいと感じた。

(聞き手|地域おこし協力隊 富川素子 書き手|地域おこし協力隊OG進藤尚子)

 

プロフィール

澳原 大介(おきはら だいすけ)さん

1988年、栃木県矢板市生まれ。東京の短大へ進学後、サッカー好きが高じて名古屋のプロフットサルチームへ就職し、ホームコートの運営管理に従事。2012年、父親の病気をきっかけに帰郷し実家のいちご園を手伝う。父親と共に「とちおとめ」をつくる傍ら、2016年、父親から独立し澳原いちご農園<外部リンク>を開園。栃木県の新品種「スカイベリー」の生産に精を出す。

澳原いちご農園HP https://oki15.com/